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リウマチ医療の歴史(4)生物学的製剤

 次は治療法の進歩に触れます。本邦では9年前にレミケードという生物学的製剤が登場。これがきっかけになり、リウマチ治療が一気にレベルアップしたのです。車椅子で入ってきた人が、この薬剤を点滴注射すると、点滴の途中から、痛みが消え、歩いて帰るという状態でした。実は同じようなことをレーザー治療で経験しました。壁づたいに歩いてきたリウマチ患者さんが治療直後に「先生走れる」と言ってくれたことを思い出しました。レーザー治療の速効性もすごいですが、生物学的製剤という最新治療は骨破壊までも長期間にわたり阻止する点で画期的といえます。現在、6種類の生物製剤を使い分けています。レミケード、エンブレル、ヒュミラ、アクテムラ、オレンシア、シンポニーです。自分自身の経験や国内外から得られる多くのデータから、個々の患者さんの状態に応じて使い分けしています。2013.1


リウマチ医療の歴史(3)診断の進歩

 現状のリウマチ診断、治療も決して完璧なものではありません。早期診断できた場合、最新の治療法を行えば2-3割の患者さんは完治、あるいは一時的であれ数年間治療を中止できるようになってきました。現代の最新のリウマチ診断について紹介します。米国/欧州リウマチ学会が合同で作業を進めた新関節リウマチ分類基準の要点に触れます。キーワードは滑膜炎の存在確認と、他疾患による滑膜炎の否定の2点です。非常に簡素化されているように思えますが、もし、これで診断出来ない場合、炎症反応、関節炎の数や持続時間などを点数化して診断する試みも行われています。関節リウマチを確定診断する上で重要なことは、滑膜炎の存在診断と膠原病、甲状腺疾患、更年期滑膜炎、一部の変形性関節症などによる他の滑膜炎を否定できるかどうかです。なお、腱鞘滑膜炎が見逃されることが多く関節エコー検査で確認することがよくあります。2013.1


リウマチ医療の歴史(2)生物学的製剤へ

 さて時代が進み、疾患修飾薬、抗リウマチ剤と呼ばれるやや進行を遅らせることのできる治療法が出現。シオゾール、メタルカプターゼ、モーバー、オークル、リドーラ、カルフェニールなどが試みられた時代が、リウマチ治療創生期です。その後、アザルフイジン、リマチルなどの現在でも使用価値が高い抗リウマチ剤が開発され、1990年代後半になってようやくメソトレキサート間欠投与法が出現。ここから、リウマチ治療の革命が始まったのです。  2000年代に入ると、抗サイトカイン療法、分子標的治療が生まれ、診断法も世界基準に統一され、新分類基準として登場、関節破壊が起こる前に診断できるようになったのです。さらに関節エコー、関節MRI検査の導入などで診断の精度が高まってきました。不治の病から抜け出し、完治をめざす方向へと舵をとってきたのです。そしてまた新薬が生まれ次世代へ向かいます。2013.1


リウマチ医療の歴史(1)手遅れにしない

 関節リウマチが不治の病の代名詞のように言われていた頃、たった10年前までのことです。それまで、関節の破壊、変形が起こってから確定診断していたのです。この頃までの診断基準には3関節以上の腫れ、左右対称の関節の腫れが少なくとも6週間以上続くこととされていました。しかも、レントゲンでリウマチ独特の骨の破壊を認めることも診断基準にしておりました。病気の進行を止める治療法がなかったことを意味しています。確定診断がそのまま不治の病の宣告でした。この頃の治療法といえば、アスピリン、鎮痛剤、ステロイド、針治療、漢方薬、温泉治療など、今ではリウマチ治療の脇役となってしまった治療法ばかりで、病気の進行を止められない治療でした。副作用のない治療法という売れ込みで現在そのような治療法のみに走っている人は手遅れにならないうちに考えを改めてください。2013.1


小児リウマチと成人関節リウマチ

 2-3歳に好発する川崎病、小児特発性関節炎(いわゆる小児リウマチ全身型)などは、炎症性サイトカインによって誘導される関節炎で、サイトカイン病と呼ばれます。原因となるサイトカインをブロックすることができるようになった今、治療結果も飛躍的に進歩しています。
 一方、成人の関節リウマチはどうかといえば、発病早期あるいは急性期、急性増悪期は抗サイトカイン療法でほぼ完全(80-90%)に病気の進行を抑制できるのですが、この段階で進行が完全にストップしない場合は、リンパ球が関与する自己免疫異常が病態の中心になって慢性化します。こうなると、大進化を遂げた抗サイトカイン療法(レミケード、エンブレル、ヒュミラ、アクテムラ、シンポニーなど)のみで治癒させることはできません。これが小児期と成人発症リウマチの大きく異なる点と考えます。しかし、それに気づいた今、治療法も大きく変化する兆しは見えます。2013.1


次世代のリウマチ治療薬、ジャック阻害剤

 関節リウマチ治療の新時代を開く原動力となった生物学的製剤も、2割程度の患者さんに投与されたに過ぎません。高額でありいつまで投与し続ける必要があるのか、中止すると元に戻ってしまうのかなど、多くの戸惑いもあります。
 しかし、新しい時代がまた始まろうとしています。次世代の先駆けとして、年内にでも投与可能になるのが、通称ジャック阻害剤と呼ばれる薬です。生物学的製剤が一つの分子をターゲットにしているのに対し、炎症を誘導する多くの分子からの情報を同時にブロックする強力な作用を持っています。しかも、生物製剤と違って、注射薬ではなく飲み薬です。しかし、新薬の登場を待っていては手遅れになるかもしれません。まずは、効果や安全性に関して、現状のベストと思われる生物学的製剤を利用し、関節の痛みや腫れを取り、関節破壊を防ぎ、その後、経口新薬に移行するというシナリオを描いています 。2012.7


リウマチの生物学的製剤治療2012

 関節リウマチ治療の最終目標は関節の変形破壊を残さず、治療を完全に終了することです。現段階における最新治療は間違いなく6種類の生物学的製剤治療です。すべて注射薬ですが、期待される効果が同じというわけではありません。  
 エンブレルという製剤は、薬剤投与不要な「治癒」を目指すべき発病早期段階の投与には向きません。発病後長期間経過した患者さんにおいて、関節破壊をその段階でストップさせ、関節痛、倦怠感などを取り去る目的ならばこの製剤がベストでしよう。 レミケード、ヒユミラ、シンポニーの3剤は、高額な生物製剤の中止、あわよくば薬剤中止完全治癒を目標とすべく、発病早期に投与開始すべきものです。他に先の4剤とは全く作用の異なるアクテムラ、オレンシアの2剤があります。病態に合わせたきめ細かな治療方針が立てられるようになりました。 2012.4

リウマチケア専門看護師

 関節リウマチ診療が革命的進化を続けています。診療内容が複雑かつ高度化し、インターネット、健康テレビ番組をはじめ、情報が氾濫し、患者さんやご家族の皆さんが振り回されていると強く感じています。医療費も高騰しており、ご苦労されていると思います。
 そこで、日本リウマチ財団認定リウマチケア看護師というリウマチケア専門職制度が発足しました。患者さんと直接対話し、病気や治療薬に関する様々な不安、家庭環境のこと、将来について、医療費のことなど、きめ細かく対応するためです。リウマチ治療の目標は単に関節症状を改善するにあらず、完全な社会参加をできるかぎり迅速に達成し、それを持続させることです。リウマチ専門医と連携し患者さんの事情にあったオーダーメイドの治療計画を策定し、その都度環境の変化に臨機応変に対応できるよう、患者さんをサポートしていきます。 2012.2

リウマチ性疾患における腫れと痛み

 関節リウマチの主たる症状は関節の腫れと痛みです。しかし、関節のはれや痛みを訴える病気はたくさんあります。痛風や他の膠原病を含む多くの病気、老化に伴う手指のヘバーデン結節・ブシャー結節、膝の変形性関節症。更年期にもよく似た症状が見られます。それらをすべてまとめてリウマチ性疾患と呼んでいます。特に関節リウマチの場合、早期診断がとても大事でその後の経過を左右することになります。しかし、リウマチ性疾患はゆっくりと症状も出たり消えたりしながら経過することも多く、関節リウマチの確定診断に数年かかった方もおられます。
 一方、関節の腫れだけで痛みを感じていない方の中にすでに関節破壊が進行していたという場合があります。関節のはれは関節破壊の危険なサインですが、破壊されないこともあります。その見分けには関節エコー検査が有効です。 2012.1

頑固な慢性の痛み治療の進歩

 痛みの治療法が進歩しています。急性に起こる痛みは外傷など組織損傷による炎症が原因であり、それには消炎鎮痛剤がよく効きます。しかし、急性期が過ぎても持続する慢性期の痛みになると、大脳や視床などの中枢神経系の働きが大きく関与してきます。その結果、鎮痛剤の効果は薄れていきます。その場合には、局所の痛みの情報が脳まで伝わる経路に働いて痛みを和らげるオピオイド鎮痛剤が効果を発揮します。最近、貼り薬や消炎剤との合剤も登場し、使い易くなりました。従来の鎮痛剤では無効とされた加齢による変形性関節症による腰痛、膝関節痛、慢性腰痛、抜歯後の痛み、帯状疱疹後の疼痛など頑固な痛みを和らげます。しかし、モルヒネなどの麻薬の作用に類似したオピオイド鎮痛剤の使用法は特殊です。どこの医療機関でも使用されている薬剤ではありませんが、慢性疼痛で悩んでおられる方に朗報となれば幸いです。2011.11

先端リウマチ治療の必要条件

 関節リウマチの治療法は劇的に進化し続けています。治療薬の新規開発スピードが速いことに加え、欧米を中心に検討される国際標準治療や先端医療が、我が国にも間髪を入れず取り入れられる体制にあることが大きいと思います。我々は、その情報をすぐに治療に反映させます。その結果として、今発病した10人の患者さんのうち2人はT年以内に完治、6人は治療の継続こそ必要ではありますが、病気になる前と変わらない生活が維持できるようになっています。
 ただし、国際標準薬のメソトレキサートを発病後すみやかに十分量(16ミリグラム)まで増量できればという服用量最低条件をクリアしなければなりません。現在最先端治療といわれる生物製剤についても同様の条件を満たすことが必要です。残念ながら、B型肝炎ウイルス持続感染者や5年以内の癌治療歴がある方には適用できませんので工夫が必要です。 2011.10