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東洋医学外来の疼痛(とうつう)治療

 某病院東洋医学外来における、痛みの治療法に関する実態調査の結果をお話します。
 加齢に伴う変形性腰椎症や若い方の腰痛には鍼治療が実施されていることが多く、有効率は80%以上でした。しかし、レーザー治療でも同様の有効率であることが示されています。
 加齢による股関節や膝関節の痛み、いわゆる五十肩、変形性頚椎症による頚肩部や上肢への放散する痛み、時々休まないと長い距離を歩けない脊柱管狭窄症の方の疼痛治療には、鍼治療とレーザー治療が併用されています。坐骨部の痛みや、関節リウマチの痛み、脊椎部直上の痛み、腱鞘炎などには、特にレーザー治療が有効という結果 です。しかし、踵や足底部の痛みに対するステロイド注射や神経ブロック、漢方薬など多彩な治療法が応用され、東洋医学科の疼痛治療は、痛みの総合診療という側面もあります。2008.4


第三の医学創造

 がん(癌)の発症を抑えると言われるNK細胞は、ストレスのかかる受験勉強中は低下し、合格と共に増加すると言われています。人間が肉体と精神の総体であることを示す一例です。現代医学(西洋医学)はその点、肉体のみに重点を置きすぎたきらいがあり、検査づけの医療と批判される一面をもっています。この反省に立ち、人間の肉体と精神の関係に注目し、個人の体質や個性に適合した医療体系を創造しようという動きが米国からスタートしました。注目されたのが代替、相補医療と呼ばれている領域、例えば東洋医学、インドの古典医学、乳酸菌など一部の健康補助食品などです。実際、最先端医療であるレーザー医療も東洋の鍼灸学理論を活用することで有効性が高まるのは実証済み。時は2000年。第三の医学の創造に向け、我が国でも、日本代替、相補、伝統医療連合会議がスタートしました。

肥満と漢方

 肥満は、日本の社会問題になってきました。若くして心筋梗塞を起こす人が著しく増えてきているからです。肥満は寿命を縮めます。
 漢方では、肥満の原因を食毒といい、節食もせず、漢方薬を飲んでやせようなどという甘い考えは通用しません。摂取カロリーを減らすのが、まず基本です。しかし同じ食物でも、油を使わないなどの調理法の工夫や、夕食のボリュームを減らし、その分を日中に食べるようにするだけでも、数キロは減量できます。
 漢方では、肥満を実のタイプと虚のタイプの二つに分けて考えます。約半年間で三十キロ減量できた女性は虚のタイプで、筋肉はぶよぶよした感じで色白の方でしたが、防己黄耆湯が有効でした。この方は同時に腰の痛みも改善しました。
 一方、便秘症で体力が充実し、おなかは太鼓腹で赤ら顔というタイプが実の肥満で、防風通聖散や桃核承気湯が有効です。

不眠症の漢方療法

 53才の女性です。身体はとても疲れているのですが、ベッドに入ると眠れないと訴えて来院。この女性は数年来の睡眠薬常用者で、日中、倦怠感が強く、頭痛、めまい、頭重感に悩まされており、睡眠薬を止められないかという相談でした。酸棗 仁湯と加味帰脾湯を二週間処方したところ、よく眠れるようになりました。この二つの漢方薬はいわゆる虚証の不眠に対して、私がよく用いる処方ですが、効き目はかなりです。現代医学での睡眠薬は服用すればほどなく眠くなりますが、途中で無理に起きようとすると目覚めが悪く、思わぬ事故の原因になったりします。その点、漢方薬はいわゆる睡眠薬ではなく一定期間、一日数回服用し続けることで、いつのまにか眠れるようになり、目覚めがさわやかなのが特徴です。なお、のぼせを伴い、いらいらして眠れない方には、黄連解毒湯が有効です。

顔のほてりと足の冷え

 突然顔がほてり汗が出る。同時にいらいらする。こんな症状の多くは更年期障害によるものです。東洋医学的には全身をくまなく巡っているはずの「気」が上(顔)へのぼったまま降りてこなれなくなった状態です。一緒に登った「血」も顔にのぼったままなので、顔は赤くほてっているのに足は冷たいということが起こります。加味逍遥散、女神散、桂枝茯苓丸などが代表的な処方です。しかし、若い年代でも、男性でも起こります。冬特に外から暖かい場所に入った時に多いのですが、たいてい、緊張するとすぐほてるとか、毎年しもやけができるなどの訴えをもっています。これは血管運動神経の失調によるもので、当然、更年期障害ではありません。22歳の女子大生の場合、当帰四逆加呉茱萸生姜湯が有効でした。なお、冷え性には有効でも、冷えのぼせには向かない漢方薬も多いので素人療法は禁物です。

ストレスと漢方

 何かとストレスの多い社会です。精神的悩みや不安が続き、肉体的疾患を引き起こす例が数多くあります。30歳のAさんは、出産後気分が落ちつかず、いらいらすると訴えて来院しました。この女性の場合、冷え性や不眠症も伴っており、加味逍遥散で改善しました。また、少し体力があり、のぼせやめまいもある方なら、女神散もいいでしょう。漢方医学では精神を”気”ととらえ、”気”の変調が肉体の変調をもたらすと考えます。気分がふさぎ、のどがつかえるような異常感あるいは不眠などは”気”のうっ滞と考えており、半夏厚朴湯、時には香蘇散が適応です。若い女性にみられる神経性食欲不振症も、”気”のうっ滞ととらえ、半夏厚朴湯がよく、女性特有のヒステリーには、甘麦大棗湯がいいようです。しかし、肉体の変調がなく、精神症状だけの例には漢方の有効性が低いので現代医学をすすめます。

不定愁訴

 多彩な訴えを持っているのに具体的な疾病を見つけられない場合がよくあります。こんな時に、自律神経失調症とか不定愁訴症候群という病名?がつけられます。現代医学的に病理学的疾病が見つからないため、治療法も不確かなものになります。一方、漢方医学は、この領域を得意としますが、漢方は長く飲まないと効果が出ないので続けられないという話も聞こえてきます。こんなデータがあります。不定愁訴によく使われる加味逍遥散という漢方薬に関してです。服用開始して、まず改善してくる症状は、頭痛、めまい、動悸、息苦しさ、いらいら感、怒りっぽさなどで、一ヵ月以内に改善してきます。さらに継続して服用すると、からだのだるさ、しびれや痛み、突然熱くなって汗をかく状態、疲労感、決断力のなさ、不安感、過度の緊張感などが改善するようです。症状によっては回復に時間がかかるのです。

漢方は本当に効くのか

 今回は 、日本東洋医学会の偉大な業績について紹介したいと思います。漢方薬は健康食品程度のものと勘違いされている方。科学的でないとお思いの方。逆に盲目的に過大評価されている方にも一言。現代医学における薬剤の有効性評価方法である二重盲検ランダム化比較試験で証明された漢方薬とその効用について紹介します。@糖尿病性末梢神経障害による立ちくらみに五苓散が有効。A清心蓮子飲は糖尿病の血糖値を下げる。B大柴胡湯はおだやかな高脂血症治療薬。C半夏厚朴湯は脳硬塞で寝たきり患者さんの飲み込み反射障害による肺炎の発生を予防する。Dアルツハイマー型痴呆など各種痴呆に当帰芍薬散。E脳血管性痴呆に釣藤散。F顔面 痙攣に芍薬甘草湯。G胃もたれに六君子湯など。一方、科学的なメスが入っていない漢方薬も今なお多い。「〜が効いた」式情報には注意を。