川崎市麻生区情報誌・神奈川リウマチ医会・学会報告等

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更年期の関節痛専門外来

 更年期症状としてホットフラッシュや気分の変調などはよく知られていますが、関節痛は見逃されがちかもしれません。しかも様々な診療科の狭間にあるような病態なので治療対象から漏れてしまうことも少なくありません。そんな現状を踏まえて当院では更年期関節痛外来を開設しました。更年期とは閉経前後5年の約10年間の時期を言います。閉経年齢は一般的に50歳前後で、40〜60歳頃に更年期症状が現れることが多いです。他の症状はなく関節症状だけが現れる場合もあります。具体的には手がこわばる、腫れぼったい、手指・手首・肘・膝・足指など関節が痛いといった症状です。肩こりや体の痛みも更年期に見られる症状です。これらの症状はエストロゲンの減少やゆらぎが原因なので、ホルモン補充療法がよく効きます。お悩みの方は一度ご相談下さい。(2020年2月より木曜診療を始めました。(外来担当:上原))。2020.3


関節リウマチ患者さんの治療目標

 リウマチで治療中の方へ。関節リウマチは近年の治療薬の進歩に伴い、疾患活動性を抑え関節破壊の進行を止めることが可能になりました。すなわち「寛解」と言われる状態ですが、治癒とは異なります。もしかすると今まで医師に「寛解ですね」と言われても、「痛みがあるのになぜ寛解なんだろう」と思われた経験があるかもしれません。寛解とはリウマチ治療におけるひとまずの目標です。寛解を達成することでリウマチが進行しなくなるという理解で良いかと思います。しかし症状がなくなるのとは違います。発症早期は医師と患者さん双方の治療目標は寛解であることに疑問はないと思います。その先の治療目標はどうでしょうか。逆に言えばそこまで望める時代になってきたということですが、寛解の先の治療目標について、それが現時点で達成可能かどうかを含め、医師と相談しながら治療を進めることが大切です。2019.12


更年期関節症と診断されたら

 検査の結果、更年期関節症と診断されたら次に考えるのは「治療をどうするか」です。更年期関節症の原因は女性ホルモンのゆらぎなので、年齢とともにそのゆらぎが和らげば症状も和らぎます。生活に支障がない程度の痛みならば、薬を使わずに様子を見るのも手です。適度な運動と体を温めるような食事を心がけてみて下さい。生活に支障が出るほどの痛みならば、ホルモン補充療法をお勧めします。使用する薬には貼り薬、塗り薬、内服薬があります。いくつかの注意点がありますが、問題なく使用できる場合は、関節痛に加えてホットフラッシュなど更年期の各種症状や閉経後骨粗鬆症に対しても効果があります。ホルモン補充療法を選択しない場合は、ビタミン剤や漢方薬を使用する方法もあります。痛みがあるのに原因がわからずどうしていいかわからない場合は、一人で悩まずに一度ご相談頂ければ幸いです。2019.11


更年期に起こる関節痛

 更年期障害の症状の一つとして関節痛や手のこわばりが出ることがあります。これは、女性ホルモンのゆらぎにより、関節支持組織の柔軟性が失われてきたことにより出る症状です。更年期関節症の場合は、ホルモン補充療法で症状改善が期待できます。一方、この時期に起こる関節痛として必ず鑑別しなければならないのが「関節リウマチ」です。リウマチの好発年齢は30〜50代、しかも女性に多いことから、その発症に女性ホルモンの影響があるのではないかと考える専門家もいます。更年期関節症とリウマチの鑑別ポイントは、関節を覆う膜、滑膜の炎症があるかないかです。症状としては関節部分が柔らかく腫れている場合はよりリウマチらしい症状と言えます。しかし、きちんと診断するためには血液検査やレントゲン、関節エコーなどが必要です。疑わしい場合には一度専門科受診をお勧めします。2019.9


リウマチに関節エコー

 関節リウマチの早期発見や治療の効果判定に関節エコーが有用です。リウマチは自己免疫異常により関節に炎症を起こし、その炎症を放置しておくと関節破壊が進み変形していく病気です。すなわち関節炎を正確に捉えることが治療の成否を左右します。関節炎の評価法としては主に血液検査がありますが、中には血液検査上の炎症反応はなくても、エコーで見ると実際には関節炎が起きている方がいます。そのような方の関節炎を正確に捉え治療につなげるため、関節エコーによる評価が大変重要です。エコー上、炎症部位は新生血管により赤い血流シグナルとして映ります。炎症の有無が一目でわかるので、患者さん自身にも自分の状態がわかりやすく好評です。自分の状態がわかれば、日常生活動作の中で注意すべきことがわかります。それが症状緩和につながることもあるので、そういう意味でも関節エコーは有用です。2019.7


関節リウマチ治療の現状と課題2019

 1999年、現在でもリウマチ治療の中心になっているメトトレキサートという薬剤が日本の保険適応を取得。2002年、その後にリウマチ医療革命を起こすことになった生物製剤インフリキシマブが保険適応取得。世界的な新薬開発が進み、生物学的製剤と同等の効果を持つ内服薬も登場しています。これまで障害者をイメージさせた関節リウマチ患者さんの7割は日常的な暮らしが保証されるまでになりました。しかし、15年程経過した今、世界共通の高い治療目標を掲げた治療戦略を維持するには、高額な医療費負担をいかに軽減するかという課題が残っています。より多くの患者さんに進化の恩恵が行き渡るような方策が必要です。バイオシミラーと呼ばれる安価な生物製剤も今年はどんどん追加されるので、期待も大きいと思います。一方では、薬物治療を中止できないまま高齢化するという問題を克服しなければなりません。2019.1


肩関節周囲炎とリウマチ

 肩関節周囲炎は肩関節の痛みに加え、凍結したように動きが制限される病態の総称です。腱板炎、打撲など原因の明らかな疾患は除かれます。一方、両側の肩関節痛の場合は、リウマチ性多発筋痛症との鑑別、50代前後の更年期頃に発症する関節リウマチとの鑑別が重要です。ポイントは肩関節周囲炎は、片方の肩関節に限る痛みであること、血液中のCRPなどの炎症反応がほぼ検出されないこと。 一方、関節リウマチの肩関節痛は動かすと痛いけれども動かせること、炎症反応陽性で、リウマチ反応が陽性であることが多いこと。疲労感などの全身反応を伴うことも多く、最大の違いは、2関節以上の多関節炎を認めることです。なお、肩関節痛に加えて、手指、足趾、手関節などの小さな関節痛をともなう50才前後の女性には、更年期関節炎がとても多いです。これも早期関節リウマチとの鑑別が必要です2018.8


早期リウマチと更年期の関節痛

 約50年前、1947年に初めて日本人女性の平均寿命が50歳を超え、現在、88歳に達しています。しかし、閉経年齢は、2歳延びたに過ぎません。閉経後の人生がどんどん延びたということです。女性ホルモン、エストロジェンの分泌が急激に低下する時期の様々な身体的、精神的異変を更年期障害と呼んでいます。更年期の頃に発症ピークがある関節リウマチは、関節変形に至る難病ですが、更年期の関節痛との鑑別がしばしば問題になります。最近、更年期関連学会から、ホルモン補充療法の安全性に関する見直しのガイドラインが公表され、適切に使用されれば乳癌、子宮体癌などの発症リスクが高まるわけではないとされました。リウマチ領域でも婦人科との連携の機運が高まっています。短期間のホルモン補充療法を適切に行うことで早期リウマチとの鑑別に使用できるのではという期待が高まっています2018.10


更年期に発症する関節炎

 閉経により、卵巣から分泌される女性ホルモンが激減すると、直接あるいは間接的に全身の臓器、生物反応が影響を受けます。筋肉痛、関節痛、コレステロール上昇、糖尿病、高血圧症、気分障害、頻尿、尿意切迫感など、数えきれないほどの多彩な症状が始まる可能性があります。女性の全てに起こるわけでもなく、ホルモン補充によって全てが解決するわけでもないのですが、体調の変化を感じる女性は明らかに増加します。女性の発症頻度が男性の4倍とされる関節リウマチも、この年代の女性に発症することが多いのですが、ホルモン補充療法で発症を阻止できたという証拠に乏しいです。その為、関節変形に至らない更年期関節炎か、1年後に関節破壊に至る関節リウマチかの鑑別は重要です。リウマチは早期診断治療により、関節破壊を阻止できるからです。手指、足指、手関節などの小さな関節の痛みや腫れからはじまることが多いです。2018.6


今年はどう変わるリウマチ医療2017

 関節リウマチの20年は、まさに変革の時代でした。診断から治療まで全てが劇的に進化した結果、国際標準化が進み、治癒を目指した一本のレールが敷かれた時代でした。一方、その流れに乗れない患者さんも目立つようになり、良かったのは最初の5年間だけなど、多くの課題も残した時代です。生物学的製剤が登場した最初の10年間の進歩は、目をみはるものがありましたが、それは医療費高額化の流れでもありました。一方では、今でも治療の中心であるべき安価な抗リウマチ薬を上手く使えなくなった現実も見え隠れします。発展したがゆえのすべて同じ治療法という時代は終わります。個々の病態や薬剤の作用点の違いに目を向けた無駄のない精密化、個別化医療推進の流れが加速しています。レールから外れた人をレールに乗せる取り組みも大きなテーマになるでしょう。2017.1


朝のこわばり

 朝起床時に起こる手指のむくみ感、握りにくさ、ゴワゴワした感じなどを一言で表現しています。関節リウマチの症状として有名ですが、女性には閉経という転機があり、女性ホルモンの低下に伴う更年期関節炎でも認められます。リウマチでは、特に強く、起床後長時間にわたって観察される症状です。これは炎症症状の現れであり、炎症が強いほどこわばり感は強くなります。その原因は、夜から朝にかけて炎症性サイトカインと呼ばれる物質の産生が徐々に高まり、朝にピークをむかえるからだと考えられています。地球上の生物の宿命でもあるサーカディアンリズムによるもので、夜間に薬を飲む方が有効性が高いと主張する先生方の根拠にもなっています。その説が正しいかどうかについては疑問もありますが、朝に疼痛物質が上昇しているという報告もあります。朝のこわばりが辛い症状であることは確かです。2016.2


リウマチの個別化・精密化医療

 日本の関節リウマチ治療は、世界でも類を見ない世界最高水準という評価を受けています。健康保険制度や日本中どこの医療機関でも受診できるという制度に支えられています。例えば、早期発見や薬物治療の効果を精密に判定できる関節エコー検査も欧米諸国の1/10の自己負担で受けられるようになりました。リウマチ医療に革命を起こした生物学的製剤も安価な類似品が登場し、これまで以上に多くの患者さんが進化の恩恵を受けられる時代に入ってきました。最近の10年は、診断方法に世界共通基準を定め、全ての患者さんに同じ治療を行う標準化治療を目指した時代であり、痛み、関節変形破壊を阻止できる確率を40%から70%へと飛躍的に進歩させました。2016年、個々の患者さん毎に、遺伝的、免疫学的な特徴を見出し、100%無駄のない最適な医療を提供する個別化・精密化医療新時代がスタートします。2015.12


五十肩の治療は、まず神経ブロック、その後レーザー治療

 五十肩は、50歳代を中心とした中年以降に発症する肩関節周囲組織の加齢性変化です。肩関節の痛みと運動障害を認める疾患群と定義されています。肩関節はグルグル回せる関節であり、脱臼しやすいという構造上の不安定性があり、関節包や腱板によって補強されています。五十肩は、長期にわたる肩関節の酷使によるこれら周囲組織の炎症や微細な損傷により発症すると考えられています。多くは明らかな誘因を特定できません。好発年齢は50才前後ですが、年齢は40~60歳頃まで広く発症します。肩峰下の滑液包や関節周囲の筋肉に炎症が広がっている場合は、肩関節周囲炎と診断していますが、これも一般には五十肩と同じように扱われます。肩関節が氷で固まったように動かせなくなることから、凍結肩とも言われます。 治療法についてお話しする前に、病態生理学的に簡単に解説します。長期間に産生され続けた痛み物質(プロスタグランディンE2,サブスタンスPなど)は、「痛いので動かさないで」という生体の防御反応を誘導します。動かすと痛いと言う精神的抑制も加わります。肩関節を安静にせよと言う抵抗し難い指令です。しかし、筋肉を動かさないと言うことは、血流の低下を招き、痛み物質が血流に乗って一掃されないという悪循環が起こります。さらに痛みと運動制限が悪化していくのです。生理学的には、痛み刺激は、ナトリウムイオンチャンネルを介して、末梢から神経伝導路を伝わり、脳に伝えられます。それに対し、脳からの指令が脊髄を通り抹消に伝えられ、筋肉の収縮を起こし、動きにくくします。この経路が持続的に働き、動けなかった筋肉は痩せていきます。 五十肩治療のポイントは、強力なナトリウムイオンチャンネルブロッカーである局所麻酔剤とレーザー治療を併用することです。できれば、局所麻酔剤による腋窩神経ブロックと肩甲上神経ブロックを数回併用して、肩関節周囲の筋肉の緊張を低下させ、関節可動域をある程度広げてから、レーザー治療を施工するのがいいと思います。勿論、局所麻酔剤が使えない場合はレーザー治療のみで対応することもあります。この場合は針治療も一定の効果はありますが、経験的に、凍結肩が進行してしまっている場合は、まず神経ブロックをオススメしています。2015.10


関節症性乾癬とメタボの関係

 乾癬という皮膚病にメタボリック症候群の合併が多いというお話です。肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症などのメタボリック症候群の方は当然、心筋硬塞や脳血管障害になりやすいため、お薬や運動療法、食事療法を続けていることと思います。しかし、これまで関連性を検討したこともなかった乾癬に心筋硬塞が多いと報告され、話題になっています。さらに、リウマチに似た関節の痛みを伴う乾癬の患者さんは、さらに心筋硬塞のリスクが高まるのです。リウマチ医療の進化とともに、周辺疾患との関連性も解明されつつあり、進化した関節リウマチ治療薬が周辺疾患にも有効だという朗報が多くなってきました。メタボリック症候群で治療中の方も皮膚に頑固な皮疹がないかどうか、関節が痛いけれどリウマチ反応陰性だという方、今一度皮膚も見てください。免疫異常からくる病気は、内科、皮膚科、整形外科などの各診療科の枠を超えているのです。H27.8


女性のみかたプロジェクト

 日本は世界一の女性長寿国です。そこで女性が心身ともに豊かに生きることを目指すという国家の理念を医療面からサポートしようとするプロジェクトが始まりました。女性特有の月経、出産、子育て、更年期そして閉経とともに始まる低血圧から高血圧症への変化、コレステロール値の急上昇など生理的変化に着目。現代ストレス社会への適応困難あるいは過剰なまでに取り組むアンチエイジングなどの加齢的変化への心理的圧迫感、女性ホルモン欠落症状、妊娠、授乳期の薬物治療、関節リウマチ、更年期関節炎、膠原病、甲状腺疾患、加齢に伴う骨粗鬆症による多発性骨折、気恥ずかしく訴えにくいとされる過活動膀胱、尿失禁など、女性に多発する加齢性疾患への積極的介入も始まっています。
 まずはプロジェクトに賛同する各施設における看護師を中心としたスタッフによる女性の悩み調査を開始しています。 H27.6


高齢者の全身痛や肩関節痛

 全身的な筋肉痛、関節痛、こわばり感、発熱などの症状が、比較的急激に広がってくる場合、通常風邪だろうと考える。しかしこの堪え難い辛さが2週間も続けば風邪じゃなさそうだと不安になるでしょう。リウマチ性多発筋痛症の疑いがあります。両肩、頸肩甲部や臀部股関節から下肢にかけての痛みを特徴とし、50歳以上特に65歳以上の高齢者が全身痛として訴えた場合に考慮する病気です。炎症反応が強いのですがリウマチ反応は陰性です。しかし、高齢で発症する関節リウマチもまた、炎症反応強くリウマチ反応陰性の場合も多く、確定診断困難なことがよくあります。同じ病気ではないかと考える専門医も多いのです。その違いをあえて言うならば、リウマチ性多発筋痛症は、自然治癒もあり、骨関節破壊はせず、左右対称に痛みを訴えないこともあること。再燃も多く、常に関節リウマチあるいは関節リウマチへの移行を考慮する必要があります。H27.4


リウマチと歯周病

 最近、関節リウマチとの関連性が指摘されています。昔から歯周病にかかるとリウマチが悪化し、治癒すると関節炎が軽くなるということを経験しています。さて、リウマチの診断においては抗CCP抗体という検査が重要です。リウマチ患者さんのタンパクがシトルリン化され、それに対する生体の反応として抗CCP抗体が産生されます。最近、歯周病菌の一種がリウマチ関節の構成成分をシトルリン化するという報告が出ました。あらためて、リウマチと歯周病の関連性が注目されています。  関節リウマチの発症に関わる環境因子は歯周病菌だけではなく、腸内細菌や喫煙も誘引の一つと考えられています。一卵性双生児においてリウマチ発症の一致率は約15%であり、遺伝よりも環境因子による自然免疫系の過度の活性化の方が重大な誘因と考えています。H27.2


リウマチ治療のEBMとNBM

リウマチ治療は、多くの研究による証拠が積み重なり、高い治療目標を達成できるようになりました。これはEBM(証拠に基づいた治療)の成果で、高額過ぎる医療費の壁さえなければ50%の患者さんに当てはまる治療法です。しかし、高齢患者さん、肺障害、糖尿病などの合併、高い医療費の壁などで、EBMに基づいた治療では対応出来ない患者さんも50%おられます。それは、家族環境、これまでの人生の歩みや生活環境、人生観、過去の病気などは個々の患者さんで異なるからです。この個人によって異なる情報に基づいた医療をNBM(ナレーションに基づく医療)と呼んでいます。若くて、合併症も少なく、バリバリ働きたいという患者さんから得られたEBMをそのままリスクの多い患者さんに当てはめて、無理な目標を設定したらどうなるでしょうか。医療サイドにとって、EBMは知識、NBMは経験です。 2014.12


神経障害性疼痛の漢方治療

 帯状疱疹の後に残るピリピリした痛みや、軽く触れるだけでも痛いといったやっかいな痛みがあります。痛みを伝える神経が傷つけられて起こる痛みで、神経障害性疼痛と呼んでいます。変形性腰椎症、腰部脊柱管狭窄症などの加齢性変化、大きなケガの後遺症、糖尿病の合併症、脳卒中の後遺症など様々な原因で起こります。いわゆる鎮痛剤が効かない痛みです。抗うつ剤、プレガバリン、麻薬系鎮痛剤などが試みられますが、なにをやってもダメという場合は、レーザー治療や漢方薬がいいことがあります。今回は、漢方治療に触れます。痛みが完全に消えるわけではありませんが、半分以下になる患者さんが多いです。認知症の治療で有名になった抑肝散、上半身の痛みなら四逆散、どうにもならないことでくよくよするタイプには香蘇散、半夏厚朴湯、加味逍遥散。冷え症が強ければ、真武湯を加えるなどします。 H2014.10


リウマチ治療薬MTXの許容

 リウマチ治療の中心はMTXと呼ばれる免疫抑制剤です。リウマチ医療に革命を起こした生物学的製剤もこの薬剤との併用で有効性が高まります。しかし、MTXの投与量が常に問題になっています。欧米人は25mg/週投与が必要であると主張、日本人はこの量では肝機能障害をきたすことが多く、12mg/週以下で投与されているのが現状です。最近、詳細は省きますが、細胞に作用する時の変化体であるMTXーPGを測定することにより、日本人は欧米人の半分量でも有効であるというデータが示されました。しかし、同時に8mg/週は必要だという結果も出ています。我々がMTXの投与量の限界を肝機能検査で見てきたことも正しかったようです。強力な薬剤を安全に使用するための指標があることはとても重要なことです。むしろ残念に思うことは、MTXや生物学的製剤の副作用のみを恐れて治療チャンスを逃してしまった患者さんを診た時です。H2014.8


進歩する痛みの治療

 痛みをすぐにとっていいのか悪いのか。医療の世界にもまだ共通認識がないのです。痛みの原因を根本的に取り除かないまま、痛みだけとることに反対する医師もいれば、原因がどうであれ痛みはとるべきだという立場もあり、患者さんを悩ませます。  関節リウマチを例にあげます。炎症による関節痛だけでなく、関節が変形してしまったためにおこる関節痛、加齢に伴う痛みなど多彩な原因による痛みで苦しんでおられます。いわゆる鎮痛剤の作用は、ただ一つの疼痛物質の合成阻害であり、完全に痛みがなくなることは少ないのです。免疫抑制剤や急速に進化した生物製剤と総称される分子標的治療による効果は、炎症の悪い連鎖を断ち切ることで関節破壊を抑制し、痛みが残ったとしても元気にしてくれる感じです。痛み刺激を脳に伝える経路をブロックするオピオイドと呼ばれる薬も登場しました。必要に応じて適切な治療薬を使うことです。H2014.6


リウマチで生物製剤導入を考える時

 リウマチ治療は、生物学的製剤の導入以来、診断から治療まで全てが変わりました。導入されてから10年経過した今、現在7種類の生物学的製剤と呼ばれる注射薬と、それらと同等以上の効果を持つ飲み薬を手にしました。私達は現在2割を超えるリウマチ患者さんに、この強力な治療薬を使っています。  どんな時にこれらの薬剤を投与したいと考えているか、お話します。関節炎が全身に及んでいる場合、他の治療で改善しない関節が1つでも存在する場合、若くして発症した人、発症して間もない人、免疫抑制剤を中止したい人、例え関節破壊がすでに進行していたり、80歳以上のご高齢の方だとしても、人生を精一杯楽しみたい人には投与を検討します。沢山の患者さん達の診療の積重ねから、かつては投与できないと思われていた治療対象の患者さんにも、安全に投与する方法がわかってきたからです。H2014.4


検査結果と一致しない慢性の痛み

 慢性の痛みについてです。血液検査に異常がないのに関節が痛い、MRI検査の異常部位と痛みの部位が一致しない、どこも悪くないのになぜ痛いの。そんな患者さんが沢山います。最初に痛みが発生した時の原因は手術だったとか、ヘルニアだったなど、原因を特定できる場合が多く、一般に治療も容易です。一方、慢性の痛みは、最初に痛みの原因になった痛み刺激がなくなっても、様々な発痛物質が永久的に患部を刺激する痛みの悪循環が起こっていると考えられています。この痛みの悪循環を止める事が治療です。必ず原因があるはずと思い込む事自体が痛みを持続させてしまう原因になっていることが多いです。長年悩んできた痛みが、痛みとの向き合い方を知っていただくことで、楽になったという患者さんも沢山おられます。痛みも早期治療が大事で、痛みの悪循環を起こさないためには、最初の痛みを我慢すべきでないという根拠にもなっています。2019.2


レーザー治療「ヘバーデン結節

 ヘバーデン結節は中年以降によく見られる指の遠位(第1)関節の加齢変化です。関節軟骨の磨耗により、関節が太く屈曲する変化です。拇指以外のほとんど全部の指に広がることが多いです。同様の変化は第2指関節に見られることがあり、ブシャー関節と呼ばれます。ブシャー関節はよく関節リウマチと似ており、専門医の判断が必要なことがあります。指の変形が始まった頃から痛みをともない、手がこわばったり、握りにくくなったりして家事が苦痛になってきます。加齢による変化だということで、放って置かれることがほとんどだと思いますが、辛ければ、低反応レベルレーザー治療を受けると楽になります。痛みの神経伝達を抑制し、末梢血管を拡張させ、疼痛を和らげ、手指の動きをスムーズにしてくれます。レーザーといっても怖いものではありません。全部の指に照射しても週2回、一〇分で終わる治療です。H2014.4


リウマチ治療の費用対効果について

 リウマチ治療の革命的進化に伴い、すでに治療費が一般国民の誰でもが容易に支払える水準を超えたようです。あなたの治療費は果たして効果に見合った負担額でしょうか。例えば、月に5万円の治療費がかかったとしても、会社を休まずにこれまで以上に仕事ができて、海外出張もできるならば、費用対効果はあると言えるでしょう。しかし、さらに治療法を工夫できて、5000円で同様の効果を出せるとしたらどうですか。  最適と思われる治療薬を、必要な場合にのみ、必要な量だけ、必要な期間投与することが原則です。高額な薬剤が効いて、安価な薬剤が効かないわけでもないのです。専門家として、患者さんの状態、経済的事情などすべてを知った上で、治療法を選択します。時には半年間だけ5万円使ってくださいという場合もあります。今関節破壊を止めないと不自由になってしまうからで、その後の治療戦略が立っているからとも言えます。 H2013.12


出産希望のリウマチ患者さん

お子さんが欲しいという若い女性の関節リウマチ患者さんが増えています。結婚前に相談にこられるカップルもよく来院されます。10代に発病して、免疫抑制剤や生物学的製剤という強力な治療を続けてこられた方も心配です。リウマチ治療が劇的に進歩したとはいえ、それは、強力な薬物療法が行われた場合に限るという話です。実際、我が国では、ほとんどすべての抗リウマチ薬は妊婦や妊娠希望者に使ってはいけない薬剤に指定されています。そこで、われわれは、主に米国FDA(食品医薬品局)の示す妊娠に対する薬剤の安全性レベルや国内外におけるこれまでの膨大な薬剤安全性情報を元に、治療法を選択しています。私自身の経験でも、多くの患者さんがめでたく出産し、ご本人の病状も安定し、子育てに励んでおられます。ただし、リウマチ罹患女性は妊娠適齢期をのがしやすく、高齢化して、妊娠しにくくなり、苦労されている場合も多いです。2013.10


次世代のリウマチ治療薬

 この十年、革命的進化を遂げたリウマチ医療。治療を続けながらもプロの運動選手として活躍できる時代になりました。牽引役となったのが、免疫抑制剤メトトレキサートと通称バイオと呼ばれる生物学的製剤です。現在では7種類の生物製剤が登場しています。当院でも全体の患者さんの1/4に生物学的製剤を投与しています。しかしながら、生物学的製剤すべてが、点滴や皮下注射製剤です。2013年7月末にこれら生物学的製剤に勝る効果をもつ飲み薬(商品名ゼルヤンツ)が登場しました。また新たな次元のリウマチ治療が始まろうとしています。10年前は大きな感動とともに、予想外の副作用の出現にも出くわしました。今ではそれを克服して、我々は、生物製材を安全に使う知恵を身につけました。ゼルヤンツについても、内外の情報を共有しながら、新たな革命を起こして行きます。今後数年間は各県数カ所の指定された専門施設のみで、慎重に投与することになります。2013.8


リウマチの診断における関節エコー検査

 関節リウマチを早期に見つけ出す検査法の代表はMRIと超音波診断です。色々な病気の診断に使われていますので、馴染みのある検査法だと思いますが、関節リウマチの診断にも有効だというお話をします。両者ともに、血液検査に異常の見られない発病早期の微小な関節炎の診断に有効な検査法です。MRIは大がかりな検査装置で、大きな関節の診断に向いており、手指関節のような小さな部位の関節炎を検出することが苦手です。しかし、リウマチの関節炎は手関節、手指、足指などの小さな関節から始まることが多く、超音波(エコー)診断が普及し始めています。エコー検査は、患者さんにとっても、直接目でご自身の関節の今の状態を確認できる手段です。関節リウマチの治療法は劇的に進化しており、早期診断と適切な治療法の選択さえできれば、通常の日常生活が約束されますので、リウマチではないかと心配しているよりも、まずは診断を受けることです。2013.6


リウマチ最新治療ジャック阻害剤

これまで関節リウマチの最先端治療は生物学的製剤であるという話題を提供してきました。それまで、不治の病の代表的疾患というリウマチのイメージを劇的に変えた生物学的製剤。その効果は8割近くの患者さんの関節の痛みや腫れを抑え、さらにはリウマチに対する悲惨なイメージを与え続けてきた関節の変形、破壊を止める作用も証明されました。革新的と言われてきた生物製剤も初登場後ほぼ10年経過しました。今度は更にその先の作用機序をもつ通称ジャック阻害剤がもうすぐ登場するという話題です。生物製剤はすべて注射薬でしたが、ジャック阻害剤は飲み薬であるという点でも注目度の高い薬剤です。その効果は生物製剤をおそらくしのぐものでしょう。しかし、効果の裏表である副作用の発生には十分な注意が必要で、はじめは限られた施設でのみ使用開始されます。本当に必要とされる患者さんにのみ、限定的に投与することになります。2013.5


中高年女性の膝関節痛

 中高年女性の膝関節痛のほとんどは変形性膝関節症です。加齢変化の代表的疾患で、肥満型体型でO脚の女性に多く見られます。膝関節の軟骨が変性摩耗し、進行すれば骨組織が露出し、筋力低下も加わり、関節がグラグラしてきます。初めは立ち上がる際、歩行開始時のみに膝の痛みを感じますが、進行すれば安静時にも痛みを感じ、膝関節をのばすことができなくなります。治療法としては、ヒアルロン酸の関節内注入や鎮痛剤、湿布、レーザー治療などの物理療法、筋力強化指導が一般的ですが、進行すると痛みを和らげることがとても困難になります。そこで痛みに対しては従来の鎮痛剤とは全く作用の異なるオピオイド鎮痛剤が登場し、成果を上げています。熱感が取れない、痛みが移動する、他の部位も痛い事が多いなど、関節リウマチの初期の症状であることもありますので、いつまでも良くならない場合には疑って見ることも必要です。2013.4


ドライアイ・ドライマウスと関節リウマチ

 ドライアイとは眼の乾燥症状で、眼がゴロゴロする、涙が出ない、眼が充血する、眼が痛い、眼が疲れるなどの症状が出ます。ドライマウスは口の中の乾燥症状で口が乾く、虫歯が多い、舌が痛い、味がわからない、口角炎をよくおこすなど。これらの症状を起こす代表的病気がシエーグレン症候群という膠原病です。主に中年女性に発症しやすい原因不明の難病です。この病気は関節の痛み、はれ、朝の手のこわばりを伴うことも多く、関節リウマチとよく似た症状を呈します。しかも、関節リウマチもドライアイ、ドライマウスをよく認めるため、鑑別診断が重要です。しかし、この両者の関節症状で決定的に異なる点があります。関節リウマチは関節の痛みやはれに止まらず、関節の変形、破壊に至るという点です。この両者はよく合併していることがあり、リウマチ治療が必要かどうかを総合的に判断しなければならないことです。2013.1


リウマチ治療の進歩と転倒骨折リスク

 リウマチ患者さんは全身の多くの関節に炎症をおこします。膝や足首などの下半身の関節炎に限らず、肩や肘など上半身の関節痛や腫れによっても歩き方に変化がみられます。歩幅が狭くなり、両足の開きが広くなり、地面をずって歩くなど健康時とは違った歩き方をしている患者さんをよく見かけます。手足が同じ方向に振り出されるなんば歩行もよく見られます。しかしこの段階で転倒することは少ないと思います。歩くことに集中しているからと考えられます。レーザー治療前後のリウマチ患者さんの歩行を分析したことがあります。重症の患者さんが対象でしたが、治療開始して間もなく、転んでしまったという患者さんのお話を聞きました。これは急激に関節炎を抑え込む最新の生物学的製剤治療にも当てはまります。転倒骨折は、急激に改善する過程で起こるリスクの一つです。歩幅もスピードも別人になるのですから注意しなければなりません。 。2013.8