更年期に起こる関節痛の原因
更年期に起こる慢性的な関節痛の原因として、「女性ホルモンのゆらぎ」と「関節リウマチ」は必ず鑑別が必要です。女性ホルモンと言われるエストロゲンの受容体は、筋肉や腱などの関節支持組織にも分布しており、それらの柔軟性を維持する働きをしています。更年期にエストロゲンの分泌が不安定になると、それらの柔軟性が徐々に失われ、手足のこわばりや関節痛として症状が現れます。一方、関節リウマチは自己免疫異常による疾患です。免疫の力が関節を覆う膜「滑膜」に対して働き、関節炎を起こし、放置すると関節破壊が進行していきます。好発年齢は30代〜50代であり、更年期と重なります。両者の症状はとてもよく似ており、重複している場合もあるので、専門家による診察や検査が必要です。当院はリウマチ膠原病専門クリニックとして関節痛やこわばり症状を多く診療しており、この年代の女性の関節痛として必ず鑑別に挙がる更年期関節痛の診療経験も豊富です。
更年期関節症の検査
まずは症状を伺います。関節痛以外にも更年期に起こる様々な症状がないかどうかチェックします。
→レントゲンで骨の異常がないかチェック
→採血で症状に合わせた検査項目をチェック
→必要に応じて関節エコーで炎症の有無等をチェック
採血結果が出るのに数日かかるため、結果説明は基本的に1週間後に行っています。
症状がつらい場合は鎮痛剤等の処方をすることもできますので、ご相談下さい。
更年期関節症の治療
ホルモン補充療法
更年期による関節症状と診断されたら、次は治療法を決めていきます。更年期関節痛はエストロゲンのゆらぎによるものであり、そのゆらぎが落ち着いてくるとそのうち症状も和らいできますが、何年も痛みを我慢する必要はありません。更年期関節痛に対して一番効果が期待できるのはホルモン補充療法です。文字通り女性ホルモンを補充する治療ですが、若い頃の分泌量まで戻すわけではなく、症状を改善できる必要最低限の量を補充します。製剤は貼り薬、塗り薬、飲み薬があり、その方に合わせて選択します。ホルモン補充療法は関節痛改善以外にも、ホットフラッシュ、動悸等自律神経系の症状の改善、閉経後骨粗鬆症の予防、脂質異常症の予防、大腸がん・胃がん・食道がんのリスク減少、肌のハリや潤い・柔軟性を保つなど多くのメリットがあります。
プラセンタ
ホルモン補充療法を希望しない場合や体に合わない場合は、代替療法としてプラセンタ、漢方、星状神経節近傍照射、レーザー治療を症状に応じて組み合わせて行います。プラセンタとは、国内の健康なヒト胎盤を原料とした、多種のアミノ酸、核酸構成物質、ミネラル、その他未知の有効成分を含んだ製剤です。広範な生体過程への賦活作用により更年期障害への有効性が示されています。当院では保険適応のある注射剤のみ使用しています。通常毎日もしくは隔日投与ですが、通院可能な範囲で行います。効果面から週2回以上をおすすめします。
星状神経節近傍照射
頚部にある星状神経節という交感神経節に直線偏光近赤外線を照射する治療法です。治療自体に痛みはありません。更年期障害のうち、交感神経の過剰な興奮を表す症状、つまり睡眠障害、いらいら、筋肉のこったような痛みなどによく効きます。逆にホットフラッシュにはあまり効果がないようです。いつも緊張しているように感じている方や、精神的な緊張が強い時に痛みを強く感じる、というような方におすすめです。週1~2回程度で続けていくことで徐々に自律神経が整っていきます。副作用がほぼない安全な治療のため、薬剤アレルギーが出やすいなど薬に不安のある方でも安心して行えます。
レーザー治療
元々レーザーといえば高出力のレーザーメスなど組織障害性のある光のことを言いましたが、組織を傷つけることなく鎮痛効果のみを残した低出力レーザーが開発され、今日の痛み治療に貢献しています。当院では関節リウマチ、変形性関節症、帯状疱疹後神経痛など各種疼痛疾患に対してレーザー治療を積極的に行っており、更年期の痛みに対しても効果を認めています。疼痛部位に当てることで痛みの伝達をブロックしたり、血流改善により鎮痛効果を発揮します。一回で効果を感じる方もいますが、通常は週1~2回程度で続けていくうちに痛みが和らいでいきます。星状神経節照射同様、安全な治療ですので、薬剤アレルギーが出やすい方でも安心して行えます。
上記以外にサプリメントであるエクオールもおすすめです。ホルモン補充療法を行うほどではないけれども痛みやこわばりが気になるという方は一度試してみて下さい。更年期関節痛で悩む方はとても多いです。しかしなかなか診療できる病院がないのが現状です。悩まれている方はご相談頂ければと思います。
【実際の症例】
56歳女性。1年程前から手のこわばりがあり、都内のリウマチ専門クリニックを受診するもリウマチではないと言われ様子を見ていた。2、3ヶ月前より右腕から手先にかけてしびれるような痛みも出現し、整形外科を受診。リウマチの検査を受けるも陰性で、心配ならと当院を紹介された。2年程前に閉経。簡易更年期指数※54点。採血上エストラジオール低値で更年期関節症と診断。塗布剤のエストロゲン製剤と内服のプロゲステロン製剤の周期的併用によるホルモン補充療法を開始。2ヶ月程で腕のしびれは改善。3ヶ月程で手のこわばりは忘れるほどに改善。5ヶ月後の簡易更年期指数は24点まで改善した。
※簡易更年期指数・・・簡便に更年期の不調をチェックし点数化するもの
症状の程度に応じて、ご自分で〇印をつけてから点数を入れ、その合計点をもとにチェックします。どれか一つの症状でも強くでれば「強」に〇をしてください。
0〜25点 | 上手に更年期を過ごしています。これまでの生活態度を続けていいでしょう。 |
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26〜50点 | 食事、運動などに注意をはらい、生活様式等にも無理をしないようにしましょう。 |
51〜65点 | 医師の診察を受け、生活指導、カウンセリング、薬物療法を受けた方がいいでしょう。 |
66〜80点 | 長期間(半年以上)の計画的な治療が必要でしょう。 |
81〜100点 | 各科の精密検査を受け、更年期障害のみである場合は、専門医での長期の計画的な対応が必要でしょう。 |
出典:小山嵩夫「簡略更年期指数:SMI」