しかし、指導する側にとっても困難な問題が多いと感じています。なぜならば、リウマチのリハビリテーションは発症後の時期や病状・経過によって全く異なるからです。動かせばいいと言う程度の安易な問題とは違うのです。明解な解答は出せないかもしれませんが、発症後の経過を追いながら、各段階でのリハビリテーションの考え方と実際について説明を試みたいと思います。参考にしていただければ幸いです。
2.中 期 発症後数年で自然に治癒してしまう例が5%程度みられますが、この患者さん達は例外的です。75%位 は発病後数年で進行期に入ってしまいます。その程度は初期の治療方法、治療開始時期、遺伝的要素、環境等でかなり個人差が認められますが、現在の治療方法では多少なりとも関節の拘縮をきたし、関節を動かせる範囲(可動域)が狭くなってきます。しかし、この時期は微熱、倦怠感等の全身的な炎症期は過ぎており、関節周囲に炎症が限局されてきます。患者さん自身もリウマチを受容しているはずです。 原則は、関節を保護しつつ筋力を増強し、関節可動域を狭くしないリハビリテーション訓練ということになります。そのためには、関節痛や筋肉痛を軽減させる物理療法を積極的にとり入れることをお勧めします。例えば、熱感を伴う関節痛には寒冷療法が有効であり、熱感が少ない場合には温熱療法が有効であることも少なくありません。我々が積極的に勧めてきたレーザー療法もこの時期以後の患者さんに、特に有用性が高いと思います。疼痛を軽減しなければリハビリテーションの実はあがらないと考えます。 |
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筋力増強訓練として忘れてはならない点は、関節を保護しつつ筋力を増強させる方法を選ばなければならないと言うことです。 重い物を持つことは訓練ではなく関節破壊行為です。 調理、掃除等の日常生活動作は訓練とは別ものです。 一般に関節保護の観点からは首をかしげたくなる動作ばかりだと思います。工夫が必要です。 筋力増強訓練として最も大切な筋肉は大腿四頭筋です。太ももの前面、側面の筋肉です。テーブルに両手をついて支えながら、軽い屈伸をやる方法をすすめる先生もありますが、私はもっと負荷の少ない方法として、椅子に座って、片足づつ膝をのばした状態で、椅子より高く足を持ち上げ、10秒くらいそのまま維持する動作をくり返す方法がいいと思います。 いずれにしても無理せず、ゆっくりやってください |
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上半身の関節では、特に関節可動域訓練が大切です。肩関節の場合、肘が肩より上まで挙げられないと不自由です。その為には、とにかく毎日少しずつ、壁に手をそえて挙上することです。肘を回しながら挙上する方法もいいと思います。 肘関節の場合、日常生活の場面では肘を伸ばして作業をすることはあまりないため、痛みが軽い場合、肘関節が完全に伸ばせなくなっていることに気がつかない例がよくあります。しかし、この頃はまだ筋肉の拘縮によって伸ばせないだけであり、物理療法を併用すると、比較的早く伸展できるようになります。 上半身では肘関節の可動域を保つことが日常生活動作を保持する点で最も大切なことです。肘関節の伸展は入浴中毎日くり返し行って下さい。くれぐれも家事が訓練の代用にならないことを認識してください |
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手関節と手指
関節の場合、炎症関節を無意識にただ使っている状態をくり返していると、尺側偏位
および屈側偏位を生じます。手首、手指が小指側、手のひら側に傾いてしまうものです。特にこの変形は利き手側の手指の付け根の関節
(MP関節)と手関節内腫れを伴っている場合、簡単に起こってしまします。 今の社会は、ドアノブに代表されるように右利き社会であり、右利きの人のために有利になるように作られています。リウマチ患者さんにとっては危険な社会と言えます。関節を回転させる方向に変形が進んで 行きます。私は右利きの人には利き手変換を勧めます。できる限り、日常は左手を使いましょう。 また、手首が手の甲の側に曲げられなくなってくると、拳を握って机などに支えをして、立ち上がる人もいます。この動作も変形を助長します。ご注意を!! 訓練として日頃から両手をできる限り胸に近付けて小指側の手の平を押して合掌する動作が簡単でいいと思います。その時も、指もできる限り伸ばすようにして下さい。 指に関しては、特に小指関節が腫れている場合、強く握る動作は禁物です。あくまでもピンチ動作までにして下さい。親指の先端と他の指の先端で小さな物をつまむ動作です。指の腹どうしでつまむことにならないように、親指と他の第2〜5指の先端と先端をつける訓練です。手を握る動作をすすめる先生も多いようですが、私はピンチ訓練が有効であり、その以上の訓練は逆効果 と考えています。 |
3.晩 期
この段階で、最も危険なのは転倒による骨折です。従って、歩行訓練がリハビリテーションの第1目標になります。手指の変形に対しては、各種補助具を使う等工夫してください。 幸い、この頃には炎症活動性はかなり穏やかになっています。身体を温めると楽に関節を動かせるようになります。 温熱療法、レーザー治療 等で関節痛をやわらげ、筋肉増強訓練、関節可動域改善訓練を続けてください。具体的な訓練方法は、中期のリハビリテーション訓練を参考にしてくだざい。 日常生活上、苦痛を伴う部位の変形には、手術療法も有効です。 私の経験では、どの段階でも痛みを軽減することをリハビリテーションの第1目標にしたいと考えます。痛みの軽減に成功しなければリハビリテーションはすすみません。よく主治医に相談してください |
おわりに | 私は大量
の副腎皮質ステロイド剤を長期間使用したために顕著な骨粗鬆症に陥り、ほとんど寝たきり状態になってしまったリウマチ患者さんの治療にたずさわったことがあります。
それはまさにリハビリテーション理論の実践でした。患者本人の努力はもとより、理学療法士、臨床心理療法士、看護婦など多くのスタッフとともに3年以上もの年月をかけて、しかも、ステロイド剤を中止せずに完全社会復帰に至りました。リハビリテーション理論はまだ完全なものではありません。特に進行性のリウマチのリハビリテーションは困難を伴います。一歩前進、半歩後退の連続でした。 リハビリテーション医学については、リウマチ専門医の間でもその効果を軽視する傾向が強いことも事実です。しかし、第3の医学として、リウマチ治療には欠くことのできない存在と私は信じています。 リウマチは長い闘病生活をしいられる難病です。生涯にわたりリウマチ訓練も続けなければなりません。最終的なゴールを定めて、訓練計画を立てることが脳卒中リハビリテーションの手法です。しかし、リウマチにはこれがあてはまりません。 その都度目標を変えつつ、今やれることを着実に実行していくことが生活の向上につながるということを肝に命じていただければ幸いです。 リウマチ医療にたずさわって、リウマチ学を学び、レーザー光線という夢の光に出会い、4000人にものぼるリウマチ患者さんの診療を行ってきました。一医師として、その経験を一つの形にしたいと思い、ホームページを作りました。リウマチ学もレーザー医学も日々進歩しています。痛みは生物にとって堪え難いものであり、ましてや関節の破壊、変形が進んでいく現実を容認することはできません。しかし、現在のリウマチ学では完全にそれを阻止することは不可能です。それでも、我々専門医は自分に治療をゆだねてくれれば、なんとかしたいあるいは何とかできるかもしれないと思っているのです。 ”あきらめないで” と心から祈っています。 近い将来リウマチはこの世からなくなるはずと信じています。 ”頑張って下さい” 全国には すばらしいリウマチ専門医がたくさんいます。 相性の合う先生だって必ずいるはずです。 いい出会いを心からお祈りしています。 |