関節リウマチとは
関節リウマチは、関節に腫れや痛みを発症し、徐々に変形していく全身の炎症性の疾患です。
免疫の過剰な働きにより関節に炎症が起きる病気で、遺伝的背景や喫煙などの環境の関与がわかっていますが、決定的な原因までは明らかになっていません。国内の患者数は約70万人で、罹患率は人口の約0.6~1.0%です。好発年齢は30~50代ですが、最近は高齢化しており60~70代にも比較的よく見られるようになりました。男女比は1:4と女性に多い疾患です。関節リウマチによる関節破壊は早期から進行していきます。発症から2年以内に急速に症状が進むことが多いので、できるだけ早く適切な治療を開始することが大切です。
関節リウマチの症状
初発症状
発症早期には、朝のこわばり、手のむくみ感、動かした時の関節痛などを自覚するようになり、続いて関節痛や腫れが持続するようになります。初めから多関節痛を自覚する場合もありますが、単一の関節痛の場合もあります。関節痛は全身の関節に起こりえます。多くは数週間持続する関節痛や腫れとして症状が始まりますが、一部は急性の関節炎として1~数日単位で突然発症する場合もあります。また、回帰性リウマチと言って症状が出たり治まったりをくり返しながらだんだんと持続するようになる発症のパターンもあります。
全身症状
関節リウマチは全身の炎症性疾患なので、全身倦怠感や、微熱、体重減少などを来すことがあります。特に炎症が強い時期はこれらの症状が強く出る傾向があります。しかし、通常は熱が出ても微熱程度で、38℃を超えるような発熱がある場合はリウマチによる熱ではなく他の原因(感染症など)を考慮する必要があります。
関節リウマチの検査
採血
リウマトイド因子
関節リウマチ患者の血清の約80%に検出される、IgGに対する抗体です。リウマチの診断や、経過を追うために使われます。しかし、RFが陰性のリウマチも約20%いますし、逆に健常人でも5~15%はRF陽性になります。特に、健常人であっても高齢者はRF陽性者の頻度が高く、他にも慢性感染症、ウィルス感染、慢性肝炎、肝硬変、甲状腺疾患、サルコイドーシス、関節リウマチ以外の膠原病など免疫グロブリンの上昇する疾患ではRFが陽性になりやすいので注意が必要です。そのようなことに注意しながら測定するのであれば、RFは大変有用な検査です。RF陽性のリウマチは陰性のリウマチよりも関節破壊の進行が早く、関節外症状を来す傾向があるなど、予後予測因子としての意義も大きいです。
抗CCP抗体
関節リウマチ患者の関節滑膜に発現している、シトルリン化蛋白に対する自己抗体です。関節リウマチを発症する以前から検出され、発症が近づくほど保有率が高まることがわかっています。すなわち、発病早期でリウマチの分類基準を満たさないような関節炎例の早期診断に有用です。また、抗CCP抗体が陽性のリウマチは陰性のリウマチよりも関節破壊の進行が早く、リウマチの予後不良因子となります。RFはリウマチの活動性を表し治療により変動しますが、抗CCP抗体は現時点では日常診療で測定する回数に制限があるため、治療による変動があるかどうかは明らかではありません。基本的には診断時に測定される項目です。
MMP-3
線維芽細胞や滑膜細胞、軟骨細胞から分泌されるたんぱく分解酵素で、関節リウマチ患者の軟骨破壊に関わっています。関節リウマチで増殖した滑膜表層細胞からMMP-3が産生されるため、リウマチの炎症が強く滑膜増殖の量が多い時に高くなります。早期例では血清MMP-3濃度が高いほど関節破壊の進行が早く、予後予測因子となります。MMP-3は乾癬性関節炎やリウマチ性多発筋痛症などのリウマチ性疾患でも高値を示すことがあるので、リウマチの診断に使う検査としては特異度が低くなりますが、治療の効果判定として使うには大変有用な検査です。
炎症反応
赤沈とCRPが炎症の程度を知るために使われます。赤沈(赤血球沈降速度)とはガラス管内を赤血球が沈んでいく速度のことで、CRPとともにリウマチの疾患活動性の悪化に伴い上昇します。CRPの方が赤沈よりも反応が早く、リウマチの活動性が上がるとまずCRPが上昇し、続いて赤沈が亢進します。両者を用いてリウマチの疾患活動性の評価を行います。
レントゲン
関節変化を把握するために重要な画像検査です。リウマチの関節破壊が進行していくと、関節裂隙の狭小化、骨萎縮、骨びらん、骨破壊、骨癒合などが起こってきます。関節破壊進行の有無を判定するため、当院では少なくとも1年に1回は撮影し、発症早期など場合によっては半年毎に撮影することもあります。レントゲン上の関節変化によってリウマチの進行度が判定されます。
関節エコー
主に滑膜炎の程度、骨びらんの有無を評価するために用います。早期発見、早期治療が重要なリウマチですが、血液検査とレントゲンだけでは診断に結びつかない場合があります。発症早期にはレントゲン上の変化は見られないこと、血液検査上RFや抗CCP抗体が陰性のリウマチもあること、そして局所的な滑膜炎の場合はCRPなどの炎症反応が上がらない場合もあることがその理由です。そのような場合に関節エコーを行うことで、局所的な滑膜炎を捉えることができたり、レントゲンでは見られないような早期の骨びらんを発見することができ、リウマチの早期診断につながります。より早期にリウマチを診断するために、関節エコーは欠かせない検査です。また、治療の評価をするためにも大変有用です。血液検査上の炎症反応が上がらなくても、実際には滑膜炎が起きている場合があります。痛みや腫れが長引く時には、CRPが0でも関節エコーを行います。
関節リウマチの診断
2010年に欧州リウマチ学会と米国リウマチ学会の共同作業で改訂された関節リウマチ分類基準を参考に診断します。診断する上で重要なことは、長引く滑膜炎があるかどうかです。分類基準を満たさなくても、診察や画像検査上滑膜炎を認める場合はリウマチと診断します。レントゲンや関節エコーでリウマチに特徴的な骨びらんを認める場合も同様です。
関節リウマチの治療
治療の4本柱は、
- 基礎療法
- 薬剤
- 手術
- リハビリテーション
です。2000年以降、次々と新薬が開発されリウマチ治療は飛躍的に進歩しました。発症早期に抗リウマチ薬を開始すれば、関節破壊を抑制することができます。いったん関節が破壊し変形すると元に戻らないため、早期発見、早期治療が大切です。リウマチの治療目標の第一段階は、寛解(症状がほとんどなく検査データで炎症反応もない状態)を達成することです。そしてその先には、寛解を維持しながら日常生活を快適に過ごしたり、やりたいことができる状態を目指します。患者さんが思う治療目標は千差万別であるため、それぞれの目標に合わせた治療戦略が必要になります。当院の院内掲示板で患者さんに今の目標を聞いてみたところ、「笑顔で過ごしたい」という声が多かったのが印象的でした。
基礎療法
まずはリウマチについての正しい知識をつけることがリウマチ治療の始まりであり根本です。薬物治療が進歩し寛解を目指せる時代になったとはいえ、寛解を維持し快適な毎日を過ごしていくには薬だけでは不十分です。発症早期は炎症のコントロールが最優先されるため、とにかく安静が大事です。「動かさないと固まってしまうのではないか」という不安からこの時期に関節を一生懸命動かすと、炎症の鎮静化が遅れるばかりか変形を助長してしまうためやめましょう。リウマチ治療が始まってからも、炎症が落ち着かない時期は安静を心がけてください。
薬物治療によって炎症が沈静化した後は、関節の拘縮を防ぐため少しずつ関節を動かすようにしてください。関節を動かす時は、痛みが出る直前までのゆっくりとしたストレッチが効果的です。湯舟につかりながら行うなど工夫してください。重いものを持ったり関節に過度の負荷をかけることはリウマチの関節炎を引き起こすことにつながります。仕事や家事でどうしても関節に負担をかける時はサポーターを使用し関節を保護しながら行ってください。
リウマチに起こりやすい有名な変形に、手の尺側偏位があります。手指が全体的に小指側に偏位してしまう変形です。この変形の原因は日常生活動作にあります。コップを持つ動作、包丁を握る動作、雑巾を絞る動作、日常生活で行う様々な動作が、実は尺側偏位につながっています。例えば、コップは片方の手を底に添えて持つなど、小指側に重力をかける動作はなるべくしないよう心がけてください。変形はリウマチの骨破壊がかなり進行してから起こると勘違いしている人がいますが、実際には炎症を起こした関節で腱が緩くなり、その状態で繰り返される日常生活動作によって起こるのです。
リウマチの人が身に着けた方が良い知識はこれ以外にも沢山あります。初めからすべてを身に着けることはできないので、少しずつ習得していきましょう。お気軽に当院スタッフまでご相談ください。
薬物療法について
当院の薬物治療の基本的考え方
リウマチの薬物治療には、世界中の研究データから作り出された標準治療というものがあります。標準治療とは、今のところ最も寛解を達成する可能性が高い治療法のことです。当院も基本的にはこのアルゴリズムに則って治療を行います。しかし、臨床試験に参加するような症例とお一人お一人の体の状態は一緒ではありませんので、ガイドラインを遵守することを最優先にするのではなく、ガイドラインを基本としながら、患者さんそれぞれの臨床症状や検査所見から薬剤を選択していきます。当院のリウマチ診療における基本理念は「生涯リウマチをコントロールする」ことです。リウマチの治療薬は目覚ましい発展を遂げ、今やリウマチは薬さえ続けていればリウマチでない人と同様の生活ができるほどになりましたが、薬をやめると多くは再燃(リウマチの炎症が再び起こる)するため薬剤の継続が重要です。しかし、1番目の生物製剤(TNF阻害薬)の12年継続率は約20%というデータ(Favalli et al, Arthritis Care & Researh vol.68, No.4, April 2016. Pp432-439)がある通り、1つの製剤だけで生涯リウマチをコントロールすることは困難です。特に、リウマチの好発年齢である40~50代で発症した場合には、平均寿命までと考えても少なくとも40年はリウマチをコントロールし続けなければいけないわけです。それを考えると1つの製剤を大事になるべく長く使う必要があります。リウマチの生物製剤はその作用機序から、抗TNFαモノクローナル抗体製剤(レミケード、ヒュミラ、シンポニー、シムジア、アダリムマブBS、ナノゾラ)、可溶性TNFα受容体製剤(エンブレル、エタネルセプトBS)、抗IL-6レセプターモノクローナル抗体製剤(アクテムラ、ケブザラ)、T細胞選択的共刺激調節剤(オレンシア)の4つに分けられます。それぞれに効きやすい病態があり、使用する順番を間違えると効果が出づらい製剤もあります。特にエタネルセプトを使うタイミングには注意が必要です。
(詳しくは可溶性TNFα受容体製剤(エンブレル、エタネルセプトBS)の特徴)
当院は製剤選択に際し完全に患者さんに選ばせるということはしません。その時々の病状や検査データから考えられる最適な製剤が存在するからです。いくつかに絞った上で経済的なことや注射の頻度などを相談し考えをすり合わせながら製剤を決めていきます。このような場面にも当院の基本理念であるSDM(共有意思決定)が行われています。
(SDMについてはこちら)
リウマチ治療の要となるメトトレキサートについて
メトトレキサートはリウマチ治療の第一選択薬であり、治療の中心的役割をもつ最も重要な薬です。細胞増殖に必要なDNAの合成に不可欠な葉酸というビタミンの働きを妨げることにより、関節内で炎症を起こす滑膜細胞やリンパ球の活発な増殖を抑え、関節炎を鎮静化させる働きがあります。また、アデノシンという炎症を抑える物質を増やすことにより抗炎症作用も発揮します。具体的な用量は以下のように使用します。リウマチが発症したら早期にメトトレキサートによる治療を始めることが寛解達成のために重要です。
生物学的製剤の特徴と使い分け(当院の治療方針)
1. バイオ(生物学的製剤)難民にしないために
10種類以上の生物学的製剤が使用可能となっていますが、どの製剤もデータ上有効性はほぼ同じです。しかし1-2年の有効率を見ているデータがほとんどで、10年以上の継続率や生物学的製剤を使用する順番によって長期の有効性はどうかなどを検討したデータは不足しています。寛解を達成することを目標にしたらすべての製剤は同列です。しかし重要なことは寛解の後も生涯リウマチをコントロールすることだと考えます。そこを目標にした場合は生物学的製剤の選択が非常に重要になってきます。特にリウマチの好発年齢である40代50代で最初に用いる生物学的製剤の選択を誤ると、将来的に有効な製剤がなくなってしまう危険性があります。安いからという理由だけで安易に選んでは絶対にいけません。バイオ難民にしないため、それはつまり生涯リウマチをコントロールしシニアになっても楽しく元気に毎日を過ごして頂くため、製剤選択は慎重に行っています。
2. 抗TNFαモノクローナル抗体製剤(レミケード、ヒュミラ、シンポニー、シムジア、ナノゾラ、アダリムマブBS)の特徴
生物学的製剤の中で最も製品数が多いのが抗TNFαモノクローナル抗体製剤です。これらの製剤は、関節リウマチの炎症を惹起する最大の要因であるTNFと呼ばれる炎症性サイトカインを中和する作用を持っています。約7割のリウマチ患者さんでTNFが炎症の主要病態であると言われているため、最初の生物学的製剤として選択することが多いです。それぞれの製剤の有効性は同等ですが、少しずつ得意な患者像が違います。当院では、シンポニー、シムジア、ナノゾラ、アダリムマブBSを使うことが多いです。
レミケードは一番最初に発売された生物学的製剤で、発売当初大勢の患者さんが救われた歴史のある貴重な薬ですが、薬剤の一部がマウスの成分で構成されているため薬剤抗体が他の製剤よりもできやすく、効果減弱やアレルギー反応の問題があり当院ではほとんど使用していません。
ヒュミラは2番目に発売された抗TNFαモノクローナル抗体製剤です。メトトレキサート(MTX)との併用で効果を発揮するということと、薬剤抗体の産生を抑えるためにMTXとの併用が必須です。そのためMTXを十分量使用できる患者さんに適しています。アダリムマブBSが後続品として発売されたことでヒュミラ自体の使用は少なくなりましたが、同様の効果をもつアダリムマブBSは費用面で生物製剤の使用をためらっていた患者さんを救える貴重な薬剤です。2週に1回の自己注射製剤です。
シンポニーは完全ヒト型抗体であり、TNFに対する結合親和性が高い製剤です。月1回の自己注射(皮下)で良いため患者さんの負担が少ないという特徴があります。メトトレキサート(MTX)を併用する場合は50mg(1本)、併用しない場合は100㎎(2本)を使用しますが、2本使うと経済的な負担が大きいことと注射も2本打つことになってしまうため、当院では基本的にMTX併用のシンポニー50㎎/月を使用します。疾患活動性がそれほど高くはないがMTXだけでは効果不十分という患者さんに適していると考えています。
シムジアは抗原に結合する一部分に遺伝的工夫がなされていることでTNFへの結合親和性が高く、さらにポリエチレングリコールを結合させたことで蛋白分解を受けにくく、作用が持続しやすい、また炎症部位への集積がしやすい可能性が示唆されています。一部分のみ滑膜炎が残ってしまうというような患者さんに適しているかもしれません。また、胎盤を通過しないことから妊娠中の関節リウマチ患者さんにも使用しやすい製剤です。2週に1回の自己注射製剤です。
ナノゾラは2022年9月に国内で承認された最も新しい生物製剤です。一般的なIgG抗体と比較して約1/4程度の分子量を有しており、病変局所への作用も期待されています。血中のアルブミンと結合することで血中半減期を延長させ、4週に1回の自己注射製剤になります。
3. 可溶性TNFα受容体製剤(エンブレル、エタネルセプトBS)の特徴
エンブレルはレミケードに次いで、日本で2番目に保険収載された生物学的製剤です。2018年エンブレルのバイオ後続品であるエタネルセプトBSが発売されました。TNFを標的にした受容体製剤で、前述の抗体製剤ががっちりとTNFと結合し中和するのに比べ、程良い結合と中和作用であるため、有効性と安全性のバランスの良い製剤と言えます。炎症を完全に抑えていなくても患者さんの自覚症状は軽く、他剤より薬剤負担も少ないため継続率の高い製剤です。この製剤を使用する際の注意点は、「程良いTNF中和作用」であるがゆえに炎症抑制が中途半端になり、深い寛解を達成しづらいことです。したがって、生物製剤1剤目には不向きです。当院データですがこの製剤の効果が薄れてきた時には血中TNF濃度は非常に高くなっているというデータがあり、そういう状況でTNFαモノクローナル抗体製剤を使用しても高くなりすぎたTNFを中和することができないため、2.でご紹介した6剤は無効となってしまいます。当院の基本方針である「生涯リウマチをコントロールする」ためには、一つの製剤を大切になるべく長く使用する必要があるため、特に50代以下で発症しこれから長くリウマチをコントロールする必要がある患者さんの場合は生物製剤1剤目の選択は特に慎重に行うべきと考えます。
4. 抗IL-6レセプターモノクローナル抗体製剤(アクテムラ、ケブザラ)の特徴
TNFと並んでリウマチの病態に重要な役割を持つIL-6という炎症性サイトカインが標的の生物学的製剤です。IL-6が主要病態である場合、炎症活動性が高く、CRP高値、血小板高値という特徴があります。また、高齢発症リウマチの場合は若年発症リウマチよりも血清IL-6濃度が高いという報告(Chen DY,et al.Gerontology:55(3),250-258(2009))もあり、高齢で炎症反応が高いリウマチ患者さんの場合は良い適応と考えています。メトトレキサート(MTX)と併用しなくても効果が高いので、MTXを使いづらい高齢の患者さんや、副作用でMTXが使用困難な患者さんにも適しています。エタネルセプトが効かなくなってきた高炎症状態の患者さんに、次の製剤として最も効果が期待できるのはこの2剤だと考えています。これらの製剤を使用するにあたり注意しなければならないのは、感染症があってもCRPが上がりづらくなってしまうことです。血液検査で感染症の有無を判断することが難しくなるため、患者さん自身とともに症状を注意深く観察することが大切です。特に蜂窩織炎などの皮膚の感染症を起こしやすくなるため、虫刺されや庭仕事などで傷を作らないよう細心の注意を払ってください。また、製剤の作用として白血球減少が起こりやすいため、適切な投与量が決まるまで事前の血液検査が必要になります。
5. T細胞選択的共刺激調節剤(オレンシア)の特徴
オレンシア®は、炎症発生の上流に位置する抗原提示細胞からT細胞へのシグナルを阻害することで、T細胞の活性化を阻害し、その結果炎症性サイトカインの産生を抑制します。メトトレキサートを併用しなくても効果が高く、活動性の低い間質性肺炎を合併した患者さんにも他剤より安全に使用できるため、合併症のあるリウマチ患者さんや高齢の患者さんに使用しやすい製剤です。また、抗CCP抗体の産生に関与するT細胞とB細胞の相互作用を阻害するため、抗CCP抗体高値のリウマチ患者さんでより効果的であることがわかっています。他の製剤と異なる作用機序を持った特色のある生物学的製剤なので、他剤無効の患者さんにも効果を発揮する可能性があります。
JAK阻害薬について
(当院の治療方針)
現在のガイドラインでは、生物学的製剤とJAK阻害薬の位置づけは同等となっています。メトトレキサートによる治療で寛解達成ができなければ次は生物学的製剤かJAK阻害薬のどちらかを開始するというものです。有効性はデータ上同等で、JAK阻害薬は内服薬なので注射がどうしても嫌という患者さんには救いの薬かもしれません。炎症性サイトカインによる刺激が細胞内に伝達される時に必要なJAKという酵素を阻害する薬剤です。JAKは様々なサイトカインの刺激伝達に関与しているため、生物学的製剤と異なり幅広いサイトカインブロック作用を有します。すなわち、副作用も多様ということです。現在のところ帯状疱疹の発症リスクがやや高まるということがわかっていますので、JAK阻害薬を使用する際は帯状疱疹ワクチン(不活化ワクチン)を接種しておくことをお勧めします。悪性腫瘍については、腫瘍免疫において重要な役割をもつIL-15というサイトカインを阻害する働きがあるため悪性腫瘍が増えるのではないかという懸念が言われていましたが、今のところJAK阻害薬の使用により悪性腫瘍が増えたという報告はありません。ただし、長期的なエビデンスがまだ不足しているため、使用には慎重を期しているというのが当院の現状です。当院の基本方針である「生涯リウマチをコントロールする」ために、JAK阻害薬から生物製剤に切り替えた際の有効性や継続率に関するデータが不足しているのも早い段階でのJAK阻害薬導入をためらう理由です。
ステロイドについて
(当院の治療方針)
リウマチ科で使用されるステロイドはプレドニゾロンと言います。速効性のある強力な抗炎症薬なので、疾患活動性が高く抗リウマチ薬の効果発現を待てないような状況で使用します。リウマチ診療において欠かせない薬剤ですが、長期に使用すると骨粗鬆症、感染症、緑内障、白内障、大腿骨頭壊死、消化性潰瘍、糖尿病の悪化などが問題となるため、当院では関節注射や皮下注射を使用することが多く、内服ステロイドが必要な場合でもなるべく早く減量する方針で治療を行っています。もしステロイドが減量できない状況にあるとしたら、疾患活動性を制御できていないと判断し治療強化を行います。